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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)108号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人望月武夫上告趣意書は「原審判決は「被告人は(中略)同人等が仕返へしをするのに加擔しやうと決心し其他の原審相被告人も亦之の事情を聞いて之に賛成しここに被告人及原審相被告人等は共同し齋藤忠俊及び其の配下を襲撃して之に暴行を加へやうと決心し(中略)被告人は棍棒を持って齋藤忠俊方を襲い」其結果一名に傷害を加へて死亡せしめ二名に傷害を與へた事実を認定してゐるが被告人が現場に於て如何なる暴行其他の行爲を爲したかを判示する處なく共同正犯として刑法第六十條を適用してゐる、然れ共刑法第六十條は「共同シテ犯罪ヲ実行シタル者」と規定し成分上飽迄も犯罪自體を実行した者を正犯としたもので犯罪自體は実行せず共同謀議にのみ參劃した者を共同正犯とする爲には犯罪の性質乃至犯罪の態様上他の共謀者の行爲が其者の行爲と同一視することが社會通念上妥當とせられる場合にのみ限らるべきことは刑罰法規の解釋上當然である、然るに從來判例の傾向を見るに犯罪の道義的責任感を過當に刑罰法規の解釋中に押入れ且は共同正犯に何等か抽象的にしても而も統一的な解釋を與へんとして當該犯罪の性質態様に鑑る處なく不當に廣く共同正犯を認め教唆又は從犯の條規を一隅に押し込めた譏を免れない、犯罪中には実行行爲自體は一名で行ふも數名で行ふも差異なく唯犯罪決行の結論を生み出す謀議と云ふ精神的加功を重視すべきものが存する反面共同謀議は犯罪の結果に重要な關係なく寧ろ実行行爲を一名で行ふか數名で行ふかの肉體的加功を重視すべきものがある、本件事案の如く肉體的加功を重視すべき而も現場助勢等の補助的正條を備ふる傷害の罪に於ける共同正犯は実行行爲自體に加功が存在せねばならない、然るに原審判決は実行行爲に付何等摘示する處なく刑法第六十條を適用したのは法令の適用を誤ったもので破毀せらるべきものと思料する」というのである。

しかし數名の者がある犯罪を行うことを通謀し、そのうち一部の者がその犯罪の実行行爲を擔當し遂行した場合には、他の実行行爲に携わらなかった者も、之を実行した者と同様にその犯罪の責を負うべきものであって、この理は數名の者が他人に對し暴行を加えようと通謀し、そのうち一部の者が他人に對し暴行を加え之を死傷に致したときにもあてはまるものである。しかして原判決の確定したところによれば、被告人は麥田勇、服部忠雄等十數名の第一審相被告人等と共に、齋藤忠俊及び其の配下の者を襲撃して之に暴行を加えようと通謀し、齋藤忠俊方を襲ひ、服部忠雄外數名の第一審相被告人等は、持っていた兇器等で齋藤忠俊の配下齋藤武虎、八千古島芳晴等を突き刺し、或は毆打して右齋藤武虎を死に致し、八千古島芳晴外三名に傷害を與へたというのであるから、たとい被告人自身は暴行をした事実なく、從って原判決に被告人の暴行した事実が摘示されていなくとも、被告人は之が実行行爲をしたものと同様傷害致死及び傷害の罪責あること勿論である。所論は右と異る見解に基くもので採用することはできない。論旨は理由がない。

仍って刑事訴訟法第四百四十六條により主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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